訴えても処分は止まりません。判決が出る頃には建物が完成し、営業は立ち行かなくなっている——それを防ぐ仮の救済が執行停止です。要件と、内閣総理大臣の異議という強烈な制度を確認します。
訴えを提起すれば、判決までは処分の効力が止まるのでしょうか。
止まらないわ。執行不停止の原則。
取消訴訟の提起は、処分の効力、処分の執行、手続の続行を妨げない、と条文にはっきり書いてあるの。
えーっ! 訴えてる間に取り壊されちゃったら、勝っても意味ないじゃん?
だから執行停止があるの。
処分等により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき、裁判所は申立てにより執行停止の決定ができるわ。
「申立てにより」ですね。
裁判所が職権で執行停止をすることはできない、と。
そのとおり。
行政不服審査法では上級行政庁・処分庁である審査庁が職権でできたけれど、裁判所は職権ではできない。
ここは対比で狙われるわ。
重大な損害かどうかは、どうやって決めるの?
損害の回復の困難の程度を考慮し、損害の性質・程度、処分の内容・性質も勘案する、と条文が判断要素を示しているわ。
かつては「回復の困難な損害」だったのが、改正で「重大な損害」に緩和されたの。
止めてもらえない場合もあるの?
あるわ。
消極要件が2つ。
公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、または本案について理由がないとみえるとき。
このどちらかに当たれば執行停止はできないの。
効力の停止には制限があったと記憶していますが。
よく覚えていたわね。効力停止の補充性よ。
処分の効力の停止は、処分の執行または手続の続行の停止によって目的を達することができる場合には、することができないの。
より軽い手段で足りるなら、そちらを使いなさい、ということね。
……もし、裁判所が止めると決めたのに、政府が「困る」と言ったら?
鋭いところに踏み込んだわね、ましろさん。内閣総理大臣の異議という制度があるの。
執行停止の申立てがあったとき、また執行停止の決定があった後でも、内閣総理大臣は裁判所に異議を述べることができるわ。
え、それって裁判所の判断をひっくり返せるってこと? マジで!?
そうなの。
異議があったときは、裁判所は執行停止をすることができず、すでに執行停止の決定をしているときは、これを取り消さなければならない。
裁判所に裁量の余地はないわ。
三権分立との緊張が指摘される制度ですね。
歯止めはあるのですか。
異議には理由を付さなければならず、内閣総理大臣はやむを得ない場合でなければ異議を述べてはならない。
そして異議を述べたときは、次の常会において国会に報告しなければならないの。
政治責任という形の歯止めね。
確認クイズ
行政事件訴訟法上の執行停止に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
- 裁判所は、必要があると認めるときは、職権で執行停止の決定をすることができる。
- 内閣総理大臣の異議があった場合でも、裁判所は理由があると認めれば執行停止をすることができる。
- 処分の効力の停止は、処分の執行または手続の続行の停止によって目的を達することができる場合には、することができない。
- 本案について理由がないとみえるときであっても、重大な損害が生ずるおそれがあれば執行停止をしなければならない。
こたえを見る
正解: 3. 処分の効力の停止は、処分の執行または手続の続行の停止によって目的を達することができる場合には、することができない。
選択肢3が正しい。処分の効力の停止は、処分の執行または手続の続行の停止によって目的を達することができる場合にはすることができない(効力停止の補充性)。選択肢1は誤り。裁判所の執行停止は申立てにより行われ、職権ではできない。選択肢2は誤り。内閣総理大臣の異議があったときは、裁判所は執行停止をすることができず、既にした決定は取り消さなければならない。選択肢4は誤り。本案について理由がないとみえるときは、執行停止をすることができない(消極要件)。