行政の活動は、処分だけではありません。お願いする(行政指導)、契約する(行政契約)、青写真を描く(行政計画)、調べる(行政調査)。権力性の弱いこれらの活動こそ、実務では圧倒的に多く使われています。判例の宝庫でもあります。
行政指導って、要するに役所のお願いってこと? 断ってもいいんだよね?
法的にはそのとおり。行政指導は非権力的な事実行為で、法的拘束力を持たない。
相手方の任意の協力によってのみ実現されるものよ。
法律の根拠は必要ですか。
権利を制限したり義務を課したりするものではないから、作用法上の個別の根拠は要らないとされているわ。
ただし、その行政機関の所掌事務の範囲内であることは必要よ。
むむむ…でも「断っていい」って言われても、許認可を握られてたら、断りにくいよね。
よく気づいたわね。
まさにそこで判例が積み重なってきたの。
建築確認の申請に対して、周辺住民との紛争を理由に指導を続け、応答を留保していた事件では、建築主が指導に従わない意思を真摯かつ明確に表明したのちは、特段の事情がない限り、留保を続けることは違法だとされたわ。
武蔵野市の事件もありますね。
ええ。
水道の給水を拒むといった制裁措置を背景に、事業者に多額の寄付金を求めた行為について、判例は行政指導の限界を超え違法な公権力の行使にあたるとしたわ。
うわ、それはさすがにお願いじゃないよね…。
そう。
それから、行政指導には原則として処分性がないけれど、例外もあるの。
医療法に基づく病院開設中止の勧告について、判例はこれに従わないと保険医療機関の指定を受けられなくなるという実際上の不利益を重く見て、処分性を認めているわ。
次に行政契約です。
こちらも法律の根拠は不要ですか。
対等な当事者間の合意だから、原則として不要とされているわ。
判例は、産業廃棄物処理施設をめぐる公害防止協定について、法的拘束力を認めているの。
水道って、断られることもあるのぉ?
水道法は「正当の理由」がなければ給水契約の申込みを拒めないとしているわ。
判例は、水の需要を抑制すべき状況にあった町の事案で、拒否に正当の理由があるとした例があるの。
原則は拒否できない、が出発点よ。
行政計画についてはいかがですか。
計画には、法的拘束力のある拘束的計画と、方針を示すだけの非拘束的計画があるわ。
計画を作るときの行政庁の判断の幅は計画裁量と呼ばれ、通常の裁量より広いとされているの。
処分性については、判例は用途地域の指定には処分性を認めていない一方で、土地区画整理事業の事業計画の決定には処分性を認め、従来の判例を変更しているわ。
最後に行政調査です。
令状なしの立入調査は、憲法35条に反しないのでしょうか。
ちょっと待って、いきなり帳簿を見せろって来るやつ?
川崎民商事件ね。
判例は、憲法35条や38条の保障が行政手続に及ぶ場合がありうることを認めつつ、当該質問検査は、刑事責任追及を目的とするものではなく、令状主義に反しないとしたわ。
確認クイズ
行政指導に関する記述として、妥当なものはどれか。
- 行政指導は相手方の権利義務を直接変動させるものではないから、いかなる場合にも処分性が認められることはない。
- 判例は、建築主が建築指導に従わない意思を真摯かつ明確に表明した場合には、特段の事情がない限り、行政指導が行われていることを理由に建築確認申請に対する応答を留保することは違法となるとした。
- 行政指導を行うには、その内容を問わず、常に個別の法律による作用法上の根拠を必要とする。
- 判例は、水道事業者は、正当の理由の有無にかかわらず、給水契約の申込みを自由に拒むことができるとした。
こたえを見る
正解: 2. 判例は、建築主が建築指導に従わない意思を真摯かつ明確に表明した場合には、特段の事情がない限り、行政指導が行われていることを理由に建築確認申請に対する応答を留保することは違法となるとした。
選択肢2が正しい。判例は、建築主が行政指導に従わない意思を真摯かつ明確に表明した場合、その後も指導を理由に建築確認の応答を留保することは、特段の事情がない限り違法な公権力の行使にあたるとした。選択肢1は誤り。行政指導には原則として処分性がないが、判例は医療法に基づく病院開設中止の勧告について、これに従わない場合の実際上の不利益を考慮して処分性を認めている。選択肢3は誤り。行政指導は非権力的事実行為であるから、所掌事務の範囲内であればよく、個別の作用法上の根拠は不要とされる。選択肢4は誤り。水道法は正当の理由がなければ給水契約の申込みを拒めないとしており、拒否が自由なわけではない。