法律は行政にどこまで自由を与えているのか。そして裁判所はどこまで踏み込めるのか。行政裁量は、記述式でも狙われる山場です。行政事件訴訟法30条という「たった一文」を出発点に読み解きます。
うぅ…裁量って言葉、教科書に何十回も出てくるのに、いまいちピンとこないんだよね。
じゃあ対比から入りましょう。
法律が要件も効果もびっしり書き込んでいて、行政庁が機械的に当てはめるだけの行為を覊束行為というの。
逆に、法律が「〜できる」「公益上必要があると認めるとき」といった余白を残している場合、行政庁には判断の幅がある。
これが裁量行為よ。
補足すると、裁量は要件の認定段階に働く要件裁量と、処分をするかどうか・どの処分を選ぶかに働く効果裁量に分けられますね。
整理が早いわね。
さて、裁量があると裁判所は口を出せないのか。
ここが本題よ。
裁量があるなら、役所の言うとおりにするしかないのぉ?
そんなことはないの。行政事件訴訟法30条は、裁量処分について「裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる」と定めているわ。
ってことは、限度を超えたらアウトなんだね。
よかった〜。
では、どういう場合に裁量権の逸脱・濫用となるのですか。
類型で覚えるといいわ。
重要な事実の誤認、目的違反・動機の不正、平等原則違反、比例原則違反、信義則違反。
そして、考慮すべきことを考慮しない考慮不尽と、考慮すべきでないことを考慮する他事考慮ね。
後半2つが、いわゆる判断過程統制ですね。
ええ。
結論そのものではなく、そこに至る思考の道筋を審査する手法よ。
判例は、道路拡幅のために由緒ある並木を伐採しようとした事案で、本来最も重視すべき価値を不当に軽視したとして違法としたわ。
…考えるべきことを、ちゃんと考えたか。
人間の反省と同じだね。
ふふっ、いい言い方ね。
逆に、裁量が非常に広く認められる領域もあるわ。
マクリーン事件ですね。
外国人の在留期間更新の不許可処分について、最高裁は法務大臣に広範な裁量を認めました。
そのとおり。
判断が全く事実の基礎を欠くか、社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限って、裁量権の逸脱・濫用として違法になる、としたの。
かなり厳しい基準ね。
外交とか、政治判断がからむと、裁判所も慎重になるってことか。
そう。
逆に、人の生命や身体に関わる場面では、裁量は狭く見られる傾向があるわ。
裁量の広狭は、対象の性質で変わるということね。
確認クイズ
行政裁量に関する記述として、妥当なものはどれか。
- 行政事件訴訟法は、裁量処分について、裁量権の範囲をこえまたはその濫用があった場合に限り、裁判所がこれを取り消すことができると定めている。
- 裁量処分は行政庁の政策的判断に委ねられているから、その適否について裁判所の審査が及ぶ余地はない。
- 判例は、外国人の在留期間の更新を許可するかどうかについて、法務大臣に裁量の余地はないとしている。
- 裁量権の逸脱または濫用があった場合、当該処分は重大かつ明白な瑕疵を帯び、当然に無効となる。
こたえを見る
正解: 1. 行政事件訴訟法は、裁量処分について、裁量権の範囲をこえまたはその濫用があった場合に限り、裁判所がこれを取り消すことができると定めている。
選択肢1が正しい。行政事件訴訟法30条は、裁量処分について「裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り」裁判所が取り消すことができると規定している。選択肢2は誤り。裁量があっても司法審査が完全に排除されるわけではなく、逸脱・濫用の有無が審査される。選択肢3は誤り。判例(マクリーン事件)は、在留期間の更新について法務大臣に広範な裁量を認めたうえで、社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかな場合に限り違法となるとした。選択肢4は誤り。逸脱・濫用があれば当該処分は違法となり取消しの対象となるが、それが直ちに重大かつ明白な瑕疵にあたって無効となるわけではない。