商人は一人では商売を回せません。そこで代理権を与えた使用人や、外部の協力者を使います。ここでは支配人の包括的代理権、表見支配人、そして代理商の権利義務を、権限の広さの順に並べて整理します。
今日は商人の「手足」の話。
まず支配人。
商人に代わって、その営業に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を持つ人よ。
一切って、裁判まで? チームでいうと副キャプテンどころか、監督代理じゃん?
近いわね。
だから包括的代理権と呼ぶの。
しかも、この代理権に制限を加えても、善意の第三者には対抗できない。
内部で「1000万円以上の契約は本社決裁」と決めても、それを知らない相手には主張できない、ということですね。
補足すると、その分だけ支配人には重い義務が課されているはずです。
そのとおり。
支配人は商人の許可がなければ、①自ら営業を行う、②自己または第三者のために商人の営業の部類に属する取引をする、③他の商人の使用人となる、④会社の取締役等となる、これらができないの。競業避止義務に加えて、精力を分散させない義務まで負っているわけ。
うぅ〜ん、四つも縛られてる…支配人さん、大変なのぉ。
権限が大きいぶん、忠実さも求められるの。
違反して取引したときは、それによって支配人や第三者が得た利益の額が、商人に生じた損害の額と推定されるわ。
先生、では「支店長」という肩書だけで、実際には支配人として選任されていない人が契約したら、どうなりますか。
それが表見支配人。
営業所の営業の主任者であることを示す名称を付した使用人は、その営業所の営業に関し、一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなされる。
ちょっと待って。
さっきの支配人は「裁判上も裁判外も」だったよね。
表見支配人は裁判外だけ?
よく気づいたわね。
そこが最大の引っかけポイント。表見支配人に裁判上の行為の権限はない。
そして相手方が悪意のときは、みなし規定は働かないわ。
それって…外から見た信じやすさで、守る範囲を決めてるってこと?
ましろさん、本質を突いたわね。
取引の安全は守るけれど、訴訟という重い行為までは外観だけで動かせない、という線引きなの。
最後に代理商について確認させてください。
使用人ではない外部の人ですよね。
ええ。代理商は、特定の商人のために平常の事業の部類に属する取引の代理または媒介をする者で、その商人の使用人ではない者。
取引の代理・媒介をしたときは遅滞なく通知する義務があるわ。
競業避止義務もあるけれど、支配人より緩い。
それと代理商の留置権。
代理・媒介によって生じた債権が弁済期にあれば、商人のために占有する物や有価証券を留置できる。その物との個別的な牽連性は不要よ。
確認クイズ
商業使用人および代理商に関する記述として、妥当なものはどれか。
- 支配人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対しても対抗することができる。
- 表見支配人は、当該営業所の営業に関し、裁判上の行為をする権限も有するものとみなされる。
- 支配人は、商人の許可を受けなければ、他の商人または会社の使用人となることができない。
- 代理商は、商人の許可を受けなくても、自己のために当該商人の営業の部類に属する取引をすることができる。
こたえを見る
正解: 3. 支配人は、商人の許可を受けなければ、他の商人または会社の使用人となることができない。
選択肢3が正しい。支配人は商人の許可がなければ、自ら営業を行うこと、自己または第三者のために商人の営業の部類に属する取引をすること、他の商人または会社の使用人となること、会社の取締役等となることができない。選択肢1は誤り。支配人の代理権に加えた制限は善意の第三者に対抗できない。選択肢2は誤り。表見支配人にみなされる権限は裁判外の行為に限られる。選択肢4は誤り。代理商も商人の許可を受けなければ、自己または第三者のために営業の部類に属する取引をすることはできない。